百姓になりたい百姓百太郎の日記

現在無職の百姓百太郎が、真の百姓を目指す日々の記録

孤独の免疫

 

サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

 

自身、探検家でもある筆者が、極限の状況に追い込まれた人間のそばに現れ、危機を乗り越える手助けをしたり、励ましや希望を与えて苦境を脱する心境に導いたりする〈存在〉、サードマンについて、豊富な事例や脳科学などの科学的研究を多数引用し検証している。

 

八千メートル級の高山の頂上付近で命懸けで奮闘する登山家や、極寒の嵐が吹き荒れる南極に翻弄される探検家や、水も食料も満足にない状態で何十日も漂流する遭難者たちのように、極限の状況に陥った人々の中には、そこにいないはずの「誰か」の存在を強烈に知覚する者がいる。

 

限界を越えた寒さや疲労や栄養不良による幻覚という説もあるが、この本で取り上げている「誰か」に共通するのは、危機的状況に立たされた人間を助けてくれる存在であるという点だ。

 

それは時に励ましの言葉だったり、危機を脱する具体的な助言だったり、あるいは「誰か」がいるだけで湧いてくる希望や力強さの感覚だったりする。

 

不思議なことに、「誰か」にははっきりとした姿の描写はない。姿かたちがなかったり、故人の知り合いの印象だけだったり、姿かたちはあっても全体がぼやけていたりしている。ただ、どのケースでも、際立った存在感と、ポジティブあるいはニュートラルな印象は共通している。誰もがそれを危機的状況に現れた恐ろしい幽霊のように恐れることなく、自然と、時に進んで受け入れている。

 

サードマンが現れるのは主に命が脅かされるような危機的状況だが、死にそうになれば誰のそばにも現れるというわけではなく、他にも条件があるのではないかと、筆者は多数の事例や研究から推察している。

 

その条件の重要なもののひとつに、孤独がある。他の誰にも頼る者がいない状況ではサードマンが出現しやすいようだ。

 

サードマンの正体が、神が遣わした守護天使であれ、時空を越えて助けに来た自分であれ、脳に秘められた実知の自助作用であれ、人には、社会から切り離されるという、社会的動物としては致命的な状況に陥った時に働く緊急の救助作用が用意されているようだと、筆者は本書で述べている。

 

いわばサードマンは、孤独という病に対する免疫のような存在なのかもしれない。

 

とりあえずサードマンに会いたい人は、山か海か南極か宇宙に行くのが近道のようだ。